去る平成19年12月1日、
第1回大阪脳血管障害研究会(於
大阪リーガロイヤルホテル)で、
「内頚動脈傍床突起部脳動脈瘤クリッピングの要点」について、手術ビデオを中心に講演いたしました。 活発な質疑応答、好評裡に終了いたしました。 |
|
|
以下は講演の一部です。
経験した症例について、実際の行なわれる際、どのような手術の順序で行なうべきか、について、ビデオや模式図を用いて示した。 |
|
只今、ご紹介いただきました富永紳介でございます。 日頃は吉峰俊樹教授を始め、ご司会の中尾和民先生や多くの先生方から、御高配を賜っております。
本日は、第一回という重要な記念すべき特別講演の御指名にあずかり、光栄に存じます。厚く御礼申し上げます。
早速に本題に入ります。
傍床突起部動脈瘤の直接手術は、前床突起や視神経蝶形骨洞、海綿静脈洞などに囲まれている等々の理由で、比較的困難とされていましたが、paraclinoid
regionの解剖の解明や頭蓋底手術の進歩で、手術や手技はおおむね確立されたようです。 |
|
|
Paraclinoid
ANの手術の順序は、
1. 広くSylvian fissureを開け、
2. 前床突起の削除と視神経管を開放し、
3. 視神経鞘を切開し、ついで
4. 硬膜輪を切開し、clippingを行う、 です。 proximal controlは、動脈瘤のdissectionの前にとっておく、あるいはとれる状態にしておくという事でしょう。
まず供覧していただいてますのは、Sylvian fissureを 広く開け、paraclinoidの後壁動脈瘤にクリッピングを行った症例です。
画面は 前床突起と視神経管をcoverするduraを 切開して、翻転している処です。
剥離子で、前床突起の硬膜を剥離しました。ついで、パンチで前床突起を除去しています。前床突起を削り、視神経管を開放するのに、barや
bone CUSAによる 方法があります。いろいろ試しましたが、今は専ら硬膜内で、主にpunchなどを用いています。その理由は、硬膜内のorientationがえられることや、視神経と蝶形骨洞を、損傷しないことに留意すれば、馴れると、安全で短時間に 完了できることです。
視神経管を開放すると、視神経鞘の切開に移ります。その切開線は 内頚動脈と視神経鞘との境界よりか、少し視神経鞘の外側縁上寄りでが
よろしいでしょう。というのは、この方が眼動脈への損傷が、確実に 防げるからです。
今の画面はduraを切開し、神経鞘を切開している処です。
次いで 硬膜輪の切開に移ります。前床突起の上面を包んだouter meningeal
duraは、 C2 / C3の移行部では、硬膜輪となって、内頚動脈adventitiaと強く癒合しています。それでも その内側では比較的loose
ですので、ここで切断し、更に内頚動脈の外側で内頚動脈から数mm離れて外周を切開し、そのmobilityを高めています。 |
|
|
carotid cave aneurysmに少し触れます。 その前に、 左上の図はparaclinoid segment, distal ring, carotid-occlomotor membrane、即ちproximal ringを示した図です。
右下の図はinner periosteal duraと、ON sheathを切開、開放し、視神経を挙上した図です。
ここがcarotid caveです。 carotid caveはC2の内側壁と蝶形骨体との間にできたくも膜下腔です。
dural ringよりproximalにありますので、一見C3に面し、extraduralに位置するようですが、pouch状に前方に突出したspaceで、くも膜下腔が存在します。したがって、ここに発生した瘤、即ちcarotid
cave aneurysmはSAHをおこしえます。 そのような臨床的な意義をもちます。 |
|
傍床突起部動脈瘤の分類 |
|
|
proximal controlについて申し上げます。
頚動脈を確保する部位は、 ① 頚部内頸動脈
② C6(Glasscock triangleでの内頸動脈錐体部)
③ C4(Parkinson三角,
superior triangle)
④ C4 / 3移行部
⑤ C3 が考えられます。
この中、①、②はproximal controlとして有効ですが、欠点として 脳動脈瘤と同一視野にないことが挙げられます。
但しC6はC2と吻合させると、trappingの追加により、cavernous sinusを含め、頭蓋内内頚動脈の巨大動脈瘤にも対処できるmeritをもっています。
これは、平成4年10月に私共が行った症例です。 方法は、middle fossaから入り、
cavernous sinusのouter layerをpeelingし、 ↓ Glasscock △ を開放し、 ↓
graftを介在させて吻合しました。 余談ですが、同様のことをArkansasのAl-Meftyらが、昨年のNeurosurgeryで発表しております。これはそのコピーです。
話を戻しまして、C4(cavernous segment)について。 Parkinsonあるいはsuperior triangleの開放は、海綿静脈洞からの 出血が激しく、術野が著しくbloodyとなりますので、実用しにくいと 思います。 ④と⑤を私達は多用しています。 proximal ringを切開しますと、cavernous sinusが開放され、C4の 末梢部が出現します。ここでproximal controlをえています。 C3でのproximal controlは optic strutを十分に削除しますと、optocarotid recessが開放され、C3が確保できます。しかし、瘤が近接しているときは利用できません。 |
|
各動脈瘤の手術手順
症例1、眼動脈瘤 |
|
A-P view, lateral view です。 図は手術操作手順です。 馴れましたら、また症例によりましては、不必要なものもありますので適宜省略してもよろしいかと思います。
誠に僭越ですが、あくまで私が考えました基本的な手順です。 参考程度に聞いてくださればよろしいかと存じます。
現在 distal ring の切開を行ったところです。 視神経を内方に軽く圧排して、眼動脈の起始部を確認しました。
この例は 中床突起が発達し、いわゆるcarotid clinoid foramen を形成しておりました。
このような例ですと、clipの進入が、時に制限されます。 視神経と内頸動脈の隙間が狭いのでclip2本は無理と判断し、1本のclipにbooster
clipを追加しています。 Micro Dopplerで patency を確認しております。
ついで術中アンギオを 行って、動脈瘤の写らないこと、parent arteryの narrowingのないこと、血流遅延のないことを確認しています。 |
|
症例2 眼動脈瘤 |
|
proximal ringの切開後、C4 / C3 junction、その後でC3でproximal controlを行っている処を呈示したいと思います。
C4 / C3 junctionで確保するのと、C3での確保の違いは、後者では 動脈瘤に接近して行うことです。
視神経を圧迫していますが、これは極力避けるべきことです。 幸い、この症例では術後、視神経のcomplicationは免れました。
|
|
症例3
大型あるいは巨大動脈瘤 |
|
内頚動脈の他にできた巨大動脈瘤と同様に、クリッピングの補助的手段として、
① retrograde suction
decompression法と、
② trapping tap decompression法があり、いずれも利用しています。
ここで呈示しますのは、まずretrograde suction decompression法の 1例です。
C3からC2にかけて、ICはhair pin状に屈曲していますので、curved clipが適しています。
今、suctionによって瘤がdeflateしています。clipを斜内上方から 外前方に向けて進めています。 |
|
症例4 大型の眼動脈瘤 |
|
前壁動脈瘤です。前後像では一見、眼動脈瘤のようですが、3DCT からわかりますように、greenの矢印がophthalmic
A、blueの矢印が 動脈瘤のorificeで、両者は確実に離れているようであり、術中所見からもやはり前壁の動脈瘤と判断しました。
この例はtrapping tap decompressionによりました。 diamond barでdrilしてtrappingを試みております。
上のclipはC3とophth. Aを一括して、下のclipはPcomのjust proximalのP2とにそれぞれ1本のclipでclippingしております。
せまいwalking spaceですのでclipを節約しました。 clipping中、注意すべきことは周囲組織、とりわけ視神経を損傷しないことです。
瘤を縮小させつつ剥離します。 右のclipをはずしますと、C2とPcomが見えています。つまりC2に
できた瘤です。 |
|
症例5 前壁動脈瘤
|
|
特徴として、内頚動脈の前壁から発生し、術者に向かって突出するように見えています。
通常は血管の分岐と無関係でdistal ring近傍がそれよりdistalのC2の前壁にみられるものです。distal
ringからdome全体をintraduralに出していることが多いです。
Proximal neckの確認と瘤のclippingのためだけなら、前床突起の先端部の除去だけでよろしいですが、頭蓋内のproximal controlをうるためには、前床突起の除去と視神経管開放を行っていることが望ましいと思い ます。 Clippingをいわゆるparallel方向に進めております。 |
|
症例6
内側壁型動脈瘤 |
|
Carotid cave動脈瘤と上、下垂体動脈瘤、これに血管分岐部のない処から発生した内側壁動脈瘤がこれに属します。
まず、内側壁動脈瘤です。大きくなると近接する上下垂体動脈をinvolveします。容易に分けられると、separateしますが、困難ですとspare
することなくclippingしています。 この例はAcomにも瘤がありました。 |
|
症例7 Carotid cave
aneurysm |
|
これは上、下垂体動脈瘤と殆ど同じ処から発生しますが、carotid cave ANが少しproximalにあります。 neckが、眼動脈のorificeよりproximalにありますので、内頚動脈の血流とは逆の方向からclipを進める時は、有窓clipの内側のbladeを眼動脈の下潜らせる方法がよろしいかと考えています。
全周性に近いdural ringの切開が必要です。 dural ringの切開は、頚動脈の可動性を高めること、クリップの進入を容易にすることの2つの目的があると思いますが、必要なだけ、必要なときに切開を追加するのがよいと考えています。dural
ringの切開 にはC3周囲のvenous plexus、即ちclinoidal venous plexusからの出血を伴うからです。 |
|
症例8
上、下垂体動脈瘤 |
|
上、下垂体動脈は1~5本、平均2.2本みられるといわれています。
容易にisolateできると、分けますが、危険なら無理はせず、多くは瘤と共にclippingしております。少なくとも1本を犠牲にした例が数例ありますが、この動脈の支配域のdeficitとして視神経や下垂体の機能低下をきたしたことは、これまで経験していません。 |
|
|
|
lateral viewです。
C3、C2の後壁には動脈の分岐がありません。通常ここにできる動脈瘤はbroad
neckで、しかも瘤のneckが内頚動脈の裏側にありますので、有窓clipによる血管形成的なclippingが適しているようです。
|
|
|
|
前例よりも少しproximalに位置している瘤です。 Ap
viewです。 lateral viewです。 ICとONを分けています。 distal ringの外側部と、それに連なる頭蓋底部のduraを
circumferentialに切っております。
|
|
|
|
C3、genuに発生し、axillaを占拠するように発育したものです。 distal
ringを切っています。 proximal control 用にproximal ringをすでに切開し、出血予防の
ためにその切開口をsurgicelで塞いでおります。
このように完全にextraduralにある動脈瘤は、術野でextraduralに 存在してSAHをおこす危険性がないとわかった段階で、手術を中断すべきだという者もいます。
本例で私共もそれを考慮しましたが、三叉神経領域の痛みを主訴としていた患者でしたので、clippingまでもっていきました。術後は消失しました。
術中angio. は示しておりませんが、瘤は写っておりませんでした。 |
|
|
|
前の例と異なり、distal ringにneckの
一部が包まれていますが、Dome全体はintraduralに出ています。 Parallel clippingを行っております。 Paraclinoid
ANの手術ではtug sutureが有効です。 この例もdural ringにtug
sutureをかけ、clippingしやすいように、瘤を糸でhandlingしています。 |
|
講演の終わりに、未破裂脳動脈瘤の手術の要点を以下のように述べた。 |
|
|
要点を挙げるとすれば、
① 広くSylvian fissureを開いて広いworking
spaceをうること。
② 症例によっては、内頚動脈と視神経のmobilityをうるため、distal ringを切り、視神経管の全長を開放すること。
③ できれば、脳動脈瘤と同一術野のC4/C3移行部かC3にproximal controlをとるようにする。
などかと考えます。
ついで、質疑応答があった。 |
|
|