聴神経腫瘍(鞘腫) 手術実績と手術の解説と実績

聴神経鞘腫(腫瘍)の手術の実際と解説
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聴神経腫瘍(鞘腫)の手術の実際と解説


図1.
横に寝かされた体位で、全身麻酔のかかった状態で開始されます。図は開頭範囲です。

(欧米では坐った体位で行なわれるところも多いのですが、いろいろな一長一短があって、日本では専ら側臥位が用いられます)

図2.
次に、開頭すると、聴神経腫瘍がどのように見えるかですが、その前に聴神 経腫瘍ができる前の、正常なときの状態を示します。中央にある太い神経から、聴神経腫瘍ができるのです。

図3.
この神経は、上方で骨の中にある孔(これを内耳道という)を通って外耳(外から見ることのできる、いわゆる耳のことです)に向かっていきますが、腫瘍は内耳道でできます。腫瘍が次第に大きくなり、1~2cmになると、孔(内耳道)から内部にむかって出てきます。

図4.
1~2cmの大きさの聴神経腫瘍です。少し腫瘍が出ています。

図5.
内耳道にある腫瘍も見るため、内耳道の骨を取り除いたところです。

図6.
聴神経腫瘍が4cm前後に増大した状態です。
この程度大きくなりますと、次の図で示しますように、腫瘍の一部が次第に大きくなり、手前の方で小脳の下にもぐり込んでいます。  

図7.
実際の大きさを示すため、上方で内耳道の骨を除き、小脳を手前に引いて、腫瘍の全体を出した状態です。このように聴神経腫瘍は本体部分と、骨(内耳道の)に隠れた部分とから成っています。  

図8.
腫瘍が約2cm以内ですと、小脳の下にもぐり込む程度が少なく、軽く小脳を手前に引く、あるいは引かなくとも全体が見えます。

図9.
さて、これから腫瘍の除去にかかります。除去は腫瘍の表面から始め、順次、腫瘍の中心部へと進めます。中心部が十分除去されますと、当然、腫瘍が徐々に縮小してゆき、緊張もなくなり、軟らかくなります。テニスボールから注射器でボールの中の空気を抜くと、ボールが小さくなり、同時にボールに緊張がなくなるのと似ています。腫瘍の中心部の除き方ですが、図ではピンセットで腫瘍を小さく分けて、これを吸引管で吸引している処を示しております。これ以外に超音波を利用して砕き、吸引する器具(超音波吸引装置)や、腫瘍をつまみとる器具(腫瘍カンシ)などを適切に用います。
神経は残しておき、それも損傷せずに、腫瘍のみを除かねばなりませんが、それには腫瘍の中味から除去することがコツです。聴神経腫瘍は中心部に腫瘍があって、それを取り巻くように神経があるからです。

図10.
腫瘍の中味の7~8割が除かれた状態です。  

図11.
この程度中味が除かれますと、先に述べましたように、腫瘍の緊張がなくなり、縮小します。こうなると、手術がずいぶん楽になります。  

図12.
更に、かんじんの顔面神経や蝸牛神経(聴覚を司る)を損傷せずに温存し、腫瘍の除去を一層容易にするため、前庭神経(バランス感覚を司る)を切断します(実は顔面神経、蝸牛神経は、前庭神経と共に集合して走っているのです。第5の太い神経がこれらの集合です。それに前庭神経が腫瘍の発生源ですので、切っても大きな支障は出ません)。切断しますと、その下から顔面神経が露出します。それまで、顔面神経は前庭神経の裏面に付着して、見えなかったのが、前庭神経を切断し、これを上方に移動することで見い出すことができるのです。

図13.
腫瘍と神経とは、強くくっつき、いわゆる癒着しております。この癒着に対して、左手の吸引管で腫瘍を外側へ引上げ、右手の器具
(これを剥離子という)で、両者を分けます。

図14.
何度も繰り返しますが、神経を損傷せずに、神経から腫瘍を分け、腫瘍を除去します。この操作が聴神経腫瘍の手術の最も難しい処、最も経験を要する処です。粗雑にやっては、神経は簡単にマヒします。聴神経腫瘍では、すでに腫瘍によって神経が引きのばされて、損傷を受けやすい状態になっているからです。
慎重に、ただひたすらに、慎重に、かつ丁寧に実行すること。これが第2のコツです。

図15.
本体部分の腫瘍が除去されますと、次に骨の内部(内耳道)にある腫瘍の除去にかかります。実は前に述べました通り、内耳道は腫瘍が発生した、いわゆる腫瘍の源のあるところなのです。従って、ここの腫瘍の除去が不十分で取り残しがあると、再発が免れません。そこで骨を除き徹底的な完全な摘出を心掛けます。

図16.
骨を除きますと、その下から膜が出現します。これをY字型に切って、膜を開きますと、内耳道の腫瘍が現れます。

図17.
内耳道では表層に腫瘍があり、その下に神経が集合しております。極めて慎重に、腫瘍の摘出を行ないます。図ではひとまず、腫瘍を上方に移動させるように、神経から剥がしております。

図18.
ついで上方から手前へ引き剥がして、除去しております。

図19.
これでおおむね除去できます。腫瘍の最も剥がしにくい処が、内耳道の入口の 近くですので、腫瘍の最終部分の摘出はどうしてもこの辺になります。

図20.
最後に、聴神経腫瘍の本体部分と内耳道部分で、神経に付着した腫瘍の小片の取り残しが、ないかどうかを見て、あれば完全に 除いて手術を終えます。手術を終える前には、出血している点はないかをも、綿密に点検し、術野をクリーンにします。

図21.
次は4cm以上の大きくなった腫瘍の摘出についてです。
これまでの小型の腫瘍の除去の方法と、大きい違いはないのですが、ただ違っている点は本体部分が大きいので、手術開始の当初は中央に腫瘍のみが見え、神経は腫瘍にかくれて見えないことです。

図22.
そこで、神経を傷つけずに中央部の腫瘍を除き、神経を露出します。

図23.
これ以後は、小型の腫瘍で述べたのと同様の操作で手術を行います。






No. 手術日 年齢  病名 治療法 執刀医(助手)
No.1 30代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(山里)
No.2 30代  多発性聴神経鞘腫 摘出術 富永(宇都宮)
No.3 30代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(久保)
No.4 60代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(宇都宮)
No.5 40代  聴神経腫瘍(右) 摘出術 富永(山里)
No.6 30代  聴神経腫瘍(右) 摘出術 富永(山里)
No.7 60代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
No.8 50代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
No.9 70代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
No.10 50代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
No.11 50代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(原国)
No.12 40代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(乾)
No.13 20代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(山里)
No.14 30代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(山里)
No.15 70代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
No.16 60代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(宇都宮)
No.17 40代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
No.18 40代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
No.19 40代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(村上)
No.20 60代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(米田)
No.21 60代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(原国)
No.22 70代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
No.23 20代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(山里)
No.24 40代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(乾)
No.25 60代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(永島)
No.26 30代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(久貝)
No.27 40代  聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(山里)
No.28 60代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(久貝)
No.29 30代  聴神経腫瘍(右) 摘出術 富永(久貝)
No.30 30代  聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(我妻)
No.31 50代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(久貝)
No.32 40代  聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(久貝

 №1    30歳代 聴神経腫瘍(左) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №2    30歳代 多発性聴神経鞘腫 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №3    30歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(久保)
手術前 手術後

 №4    60歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №5    40歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №6    30歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №7    60歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №8    50歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №9    70歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №10   50歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №11   50歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(原国)
手術前                手術後

 №12    40歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №13   20歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №14   70歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №15   70歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №16   60歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(宇都宮)
手術前 手術後

 №17   40歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №18   40歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №19   40歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(村上)
手術前 手術後

 №20   40歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №21   60歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(原国)
手術前 手術後

 №22   70歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №23   20歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №24   40歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(乾)
手術前 手術後

 №25   60歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(永島)
手術前 手術後

 №26   30歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №27   40歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(山里)
手術前 手術後

 №28   60歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №29   40歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №30   30歳代 聴神経鞘腫(右) 摘出術 富永(我妻)
手術前 手術後

 №31   50歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

 №32   40歳代 聴神経鞘腫(左) 摘出術 富永(久貝)
手術前 手術後

聴神経腫瘍といいましても、患者さんにはどこにできた腫瘍か、どのように手術をされるのか、想像のつかないことだと存じます。

 聴神経腫瘍は脳(正確には頭蓋骨の中で、脳の外)にできる腫瘍です。 数多くある脳外科手術の中で、最もむずかしいものとされていますが、今では、技術の向上、器具の開発、とくに神経刺戟装置(神経がどこにあるか、どの程度神経が損傷されているかを知らせる)が使えるようになって、手術成績が著しく向上しました。多くの経験を 積み、優秀な実績を挙げている脳外科医にかかると、非常に良い手術結果がえられるようになりました。  どのように手術が行われるかについてお話しします。 頭蓋骨の中にある聴神経腫瘍に到達するのに、専ら後頭蓋窩法で行います。しかもこの 方法は大きい聴神経腫瘍にも、小さい聴神経腫瘍にも適しており、成績も優れています。
直近の聴神経鞘腫(腫瘍)の手術実績を公表いたしました。
 表示は、患者様のプライバシーを最大限に尊重して、年齢は、~代とし、 氏名、性別は省略しました。
 聴神経腫瘍の手術に神経刺激装置(腫瘍に隠れている顔面神経、聴神経の存在する位置を教えてくれる)を用いることで、手術が容易になり、成績が向上しました。
 しかし、世界の、あるいは日本の一流の脳外科医の手によっても、たとえば、M・ザミイ(ドイツ)によれば、
  顔面神経温存率:93%
  聴力温存率(小さい聴神経腫瘍):53%でした。
私は手術前に顔面マヒのない人には、顔面マヒを出さないで、実用聴力のある人には、聴力をそこなうことなく、維持したまま、腫瘍を完全摘出かそれに近い状態で、手術を完了すべきであると、考え、努力しております。